
ワーム(wyrm、古英語wyrm、古ノルド語ormr、古高ドイツ語wurm)は脚も翼もない原始的な蛇形の巨大龍で、ゲルマン・北欧神話における最も古い龍図像であり、後世のクロマティック・ドラゴンや紋章学のワイバーン分類とは別個の形態系統を成す。語源は印欧祖語の語根『*wérmis(虫、蛇)』にまで遡り、ラテン語vermis、サンスクリット語krmiと同根である。古英語叙事詩『ベーオウルフ(Beowulf)』(現存単一写本、大英図書館Cotton MS Vitellius A.xv、約一〇〇〇年頃)の末尾(二二〇〇-三一八二行)で、五十年間山中の洞窟で宝を守り、盗まれた杯に激怒して村を焼く老龍が『wyrm』と記される。最も有名な事例は十三世紀後半アイスランドの散文エッダ『スノッリ・エッダ(Snorra Edda、1220年頃スノッリ・ストゥルルソン編)』のギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)第三十四章と『古エッダ(Sæmundar Edda)』が記録するヨルムンガンドル(Jǫrmungandr、『巨大な杖』『巨大な棒』)、すなわちミッドガルド(Miðgarðr)の海を取り囲む世界蛇で、自身の尾を口に咥えて人間世界全体を巻き、ラグナロク(Ragnarǫk)の最終決戦で雷神トール(Þórr)と運命的な相打ちを迎える。英国の地方伝承では、ダラム州ペンショーのランブトン・ワーム(Lambton Worm、一四世紀十字軍出身の存・ランブトン卿が魔女の助言で処置、一八六七年バラッド出版)、サセックスのリミンスター・ナッカー(Lyminster Knucker、九世紀サクソン領主が処置)、デヴォン州のシャーボーン・ワーム(Sherborne Wyrm)など、地方単位の巨大蛇伝承が豊富である。
起源
語源学的起源は印欧祖語の語根『*wérmis(虫、蛇)』であり、ラテン語vermis、サンスクリット語krmiと同根である。ゲルマン語派では古英語wyrm、古ノルド語ormr、古高ドイツ語wurm、古サクソン語wurm、古フリジア語wirmとして定着した。文献的起源は九世紀後半または十世紀初頭に書かれた古英語叙事詩『ベーオウルフ』(現存単一写本、大英図書館Cotton MS Vitellius A.xv、約一〇〇〇年頃)末尾の宝物龍エピソードで、トールキンは一九三六年英国学士院講演『ベーオウルフ:怪物と批評家(Beowulf: The Monsters and the Critics)』でこれを分析した。十三世紀後半の北欧神話におけるヨルムンガンドルは、スノッリ・ストゥルルソン(Snorri Sturluson, 1179-1241)が一二二〇年頃に編纂した『スノッリ・エッダ』ギュルヴィたぶらかしと『古エッダ』に最も詳細に記録される。英国地方伝承は十九世紀の民俗学者ウィリアム・ヘンダーソン『イングランド北部および国境諸州民俗誌(Notes on the Folk-Lore of the Northern Counties of England and the Borders, 1879)』と一八六七年に出版された作者不詳のノーザンブリア方言バラッド『ランブトン・ワーム』に豊富に採集された。J.R.R.トールキンが一九三七年『ホビット』でスマウグを『wyrm』と呼ぶ際にこの図像に直接依拠し、一九七七年AD&D『モンスターマニュアル』のパープル・ワーム、一九九〇年『ドラコノミコン』の『true wyrm』階級(古代龍の最高齢階級)、二〇一四年第五版『モンスターマニュアル』の『Ancient』階級にまで継承された。
特徴
- 脚も翼もない原始的な蛇形巨大龍 — ワイバーンやクロマティック・ドラゴンと区別されるゲルマン正典
- 古英語wyrm、古ノルド語ormr、古高ドイツ語wurm — 印欧祖語『*wérmis』同根
- 巨大な体で地を巻く、深い井戸や地下洞窟、海中に蜷局を巻く
- 北欧のヨルムンガンドルはミッドガルドの海全体を取り囲む規模
- ラグナロクでのトールとの相打ち — 悲劇的運命
- 強力な毒液(ランブトン・ワーム・バラッド)と圧倒的体躯で脅威を与える
物語
ゲルマン・北欧神話と英国民俗における最も原始的な巨大蛇図像であり、本語彙はJ.R.R.トールキン『ホビット』(一九三七)のスマウグとAD&D『モンスターマニュアル』(一九七七)以降のD&Dパープル・ワーム、true wyrm階級として継承された。現代ファンタジーゲーム — 『ウィッチャー3』(二〇一五)のスリップゲート・ワーム、『ダークソウル』シリーズのグルのワーム、『マジック・ザ・ギャザリング』 — でも積極的に援用される。
弱点
神性武器(切れ味の落ちない剣や祝福された矢)と神話級英雄の一撃に弱く、弱点である頭部や心臓を正確に狙えば致命傷を負わせうる。ランブトン・ワーム・バラッドでは存・ランブトン卿が鎧に剃刀を仕込み、蛇が巻きつくと自ら切り裂かれる戦略が正典である。北欧のヨルムンガンドルはトールの鎚ミョルニル(Mjǫllnir)でのみ致命傷を負う。
文化的・歴史的意義
本図像はゲルマン・北欧神話の原始的巨大蛇図像であり、印欧カオスカンプ(嵐神対蛇) — 北欧トール対ヨルムンガンドル — の直接事例である。ウィリアム・ヘンダーソン、マックス・ミュラー(Max Müller, 1823-1900)、ジョルジュ・デュメジル(Georges Dumézil, 1898-1986)の比較神話研究がこの分類を確立した。
ポップカルチャーでの登場
古英語『ベーオウルフ』(約一〇〇〇年写本、大英図書館Cotton MS Vitellius A.xv)末尾の宝物龍エピソード、スノッリ・ストゥルルソン『スノッリ・エッダ』ギュルヴィたぶらかし(一二二〇年頃)のヨルムンガンドル、『古エッダ』、一八六七年『ランブトン・ワーム』バラッド、一八七九年ヘンダーソン『英国北部民俗誌』、J.R.R.トールキン『ホビット』(一九三七)のスマウグ(wyrm)、AD&D『モンスターマニュアル』(一九七七)のパープル・ワーム、『ドラコノミコン』(一九九〇)のtrue wyrm階級、第五版『モンスターマニュアル』(二〇一四)のAncient階級、『ウィッチャー3:ワイルドハント』(二〇一五)のスリップゲート・ワーム、『ダークソウル』シリーズのグルのワーム。


