LoreArc
centaur
1 / 1
ケンタウロス すべて見る

ケンタウロス

ケンタウロス · 半人半馬 — ギリシャ神話の伝説的存在

人間の上半身と馬の下半身を持つギリシア神話の種族。主としてテッサリア地方のペリオン山に棲み、多くは野蛮かつ好色な種族として描かれる — ペイリトオスの婚礼で酒に酔った彼らが花嫁ヒッポダメイアとラピタイ族の女性たちを襲い、ケンタウロマキア戦争が起きた事件が最も有名(パルテノン神殿南側メトープ、紀元前四四七から四三二年)。決定的な例外はケイロン(Χείρων)で、クロノスとニンフ・ピリュラの子であり、医学、音楽、哲学、占星術の達人であった。ヘラクレス、アキレウス、イアソン、アスクレピオスなどギリシアの英雄たちの師となり、ヘラクレスの放ったヒドラの毒矢に誤って当たり永遠の苦痛を背負うと、自らの不死性をプロメテウスに譲って死を選んだ。ゼウスはケンタウルス座として彼を天に永遠に祀った。

起源

ケンタウロスの最古の直接記録はホメロス『イリアス』第一歌二六二から二六三行と『オデュッセイア』第二十一歌二九五から三〇四行(口承伝承、紀元前八世紀頃)で、ペイリトオスがラピタイ族と共に『山中の獣のごとき者ら』(ケンタウロイ)を討った事件を回想する。ホメロスは『ケンタウロイ』の名のみを用いて半人半馬の姿を直接記さないが、ヘシオドス『ヘラクレスの盾』一七八から一九〇行(紀元前七世紀頃)がその姿の典型を定めた。ピンダロス『ピューティア讃歌』第二歌四〇から四八行(紀元前五世紀前半)は起源神話を整理する — イクシオンがヘラを犯そうとしたところ、ゼウスがヘラに似せた雲のニンフ・ネペレを与え、これと交わって生まれたのがケンタウロスである。ケイロンとポロスは別系で、クロノスとニンフ・ピリュラの子(アポロドロス『ビブリオテーケー』一・二・四)。ケンタウロスとラピタイ族との戦争(ケンタウロマキア)はパルテノン神殿南側メトープ三十二枚(ペイディアスの工房、紀元前四四七から四三二年、現存分は大英博物館エルギン・マーブルズに含まれる)に彫られ、ギリシア文明対野蛮の決定的視覚的象徴となった。オウィディウス『変身物語』第十二歌二一〇から五三五行(紀元八年)がラテン文学定型化を担う。ケイロン神話はアポロドロス『ビブリオテーケー』二・五・四(紀元一から二世紀)に集約 — ヘラクレスのヒドラの毒矢に誤って当たり、永遠の苦痛を負ったケイロンが自らの不死性をプロメテウスに譲って死を選んだ。

特徴

  • 人間の上半身(頭・腕・胸)と馬の下半身(四肢・尾)が腰で結合 — 平均人間部六フィート、全長約八フィート(二・四メートル)
  • 弓・槍・棍棒を同時に扱う膂力と、馬と同等の機動性 — 騎兵より速い突撃
  • 野蛮ケンタウロス(ペリオンの大半)は好色・暴飲・即興的暴力、ケイロンは医学・音楽・天文・予言の知恵という両極
  • テッサリアのペリオン山を本拠とし、一部はエリスのポロエ山やマレア岬に住む
  • イクシオンとネペレの子(多数)とクロノスとピリュラの子(ケイロン・ポロス)という二系統が並立

物語

神話においてケンタウロスは二極を同時に占める。野蛮ケンタウロスはギリシア精神(ロゴス)と対比される野性(エロス、ワイン)の化身であり、ケンタウロマキアはヘレネス文明の自己定義神話である(ジョン・ボードマン『The Parthenon and its Sculptures』, University of Texas Press, 一九八五年)。一方ケイロンはギリシア英雄神話の中核的師範像で、ヘラクレス(アポロドロス『ビブリオテーケー』二・四・九)、アキレウス(『イリアス』一一・八三一)、イアソン(アポロニウス『アルゴナウティカ』一・五五四)、アスクレピオス(ピンダロス『ピューティア』三・五から七)、アクタイオン(アポロドロス三・四・四)を全て教えた。ケンタウルス座はエラトステネス『星座神話』第三十八編(紀元前三世紀)以来ケイロンに比定され、現在の国際天文学連合八十八星座体系の『Centaurus』として残る。現代ファンタジーではC. S. ルイス『ナルニア国物語』(Geoffrey Bles, 一九五〇から五六年)の高貴なケンタウロス、グレンストーム、J. K. ローリング『ハリー・ポッター』(Bloomsbury, 一九九七から二〇〇七年)のホグワーツ禁じられた森のフィレンツェとベイン、リック・リオーダン『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(Disney-Hyperion, 二〇〇五から二〇〇九年)のケイロン(D先生)が二側面を変奏する。

弱点

神話的にケンタウロスの決定的弱点は酒と自制心の欠如である。ペイリトオスの婚礼のケンタウロマキアはワインによって引き起こされ、オウィディウス『変身物語』一二・二一九から二二〇は同一行にワインと暴行未遂を並べる。ヘラクレスがポロスを訪ねた際も、神聖なワイン瓶が開かれて香りが広がると、山中のすべてのケンタウロスが狂気に駆られて押し寄せ、全て殺された(アポロドロス『ビブリオテーケー』二・五・四)。最も賢明なケイロンですら、ヘラクレスのヒドラの毒矢に誤って当たり永遠の苦痛に陥った — 人間の英雄の武器に倒れる悲劇が定型である。四肢構造ゆえに狭い通路、屋内、階段、湿地に弱く、第五版D&D基準で挑戦評価二の中級敵だが、遠距離武器と地形の制限に脆弱である。

文化的・歴史的意義

ケンタウロスはギリシアが自己と野蛮(バルバロス)との境界を神話化した最強の形象であり、パルテノン神殿南側メトープ三十二枚(ペイディアスの工房、紀元前四四七から四三二年)はその視覚的頂点である。一八〇一から一八一二年にトマス・ブルース(エルギン伯)によって取り外され英国へ運ばれた『エルギン・マーブルズ』の一部として、現在は大英博物館に所蔵されており、ギリシア政府の返還要求の中心対象である。ケイロン神話は『弟子の武器によって死ぬ師』のモチーフの原型であり、英国の医師ウィリアム・ハーヴェイが一六二八年の『心臓と血液の運動について』(De motu cordis)の献辞でケイロンを『医学の始祖』と呼んで以来、西洋医学史の象徴となっている。天文学では、一九七七年に米国の天文学者チャールズ・コワルが土星と天王星の軌道の間に発見した小天体『2060 Chiron』の名となり、現在『ケンタウルス』(centaurs)小惑星群の代表天体である。リック・リオーダンの『パーシー・ジャクソン』シリーズ(二〇〇五年から)でも、ケイロンは英雄を育てる師として現代英米ファンタジーに繰り返し登場する。

ポップカルチャーでの登場

ホメロス『イリアス』一・二六二から二六三、『オデュッセイア』二一・二九五から三〇四(紀元前約八世紀) — ペリオンの獣のごとき種族ヘシオドス『ヘラクレスの盾』一七八から一九〇(紀元前約七世紀) — 半人半馬の図像定型化ピンダロス『ピューティア讃歌』二・四〇から四八(紀元前五世紀前半) — イクシオンとネペレの子の起源神話パルテノン神殿南側メトープ三十二枚(ペイディアスの工房、紀元前四四七から四三二年、エルギン・マーブルズ大英博物館) — ケンタウロマキア視覚的定型アポロドロス『ビブリオテーケー』二・五・四(紀元一から二世紀) — ヘラクレスとポロス、ケイロンの死オウィディウス『変身物語』一二・二一〇から五三五(紀元八年) — ケンタウロマキアのラテン定型エラトステネス『星座神話』第三十八編(紀元前三世紀) — ケンタウルス座とケイロンの同定C. S. ルイス『ナルニア国物語』(Geoffrey Bles、一九五〇から五六年) — 高貴なケンタウロス、グレンストームJ. K. ローリング『ハリー・ポッター』シリーズ(Bloomsbury、一九九七から二〇〇七年) — フィレンツェ、ベイン、禁じられた森リック・リオーダン『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(Disney-Hyperion、二〇〇五から二〇〇九年) — ケイロンをD先生として描く

豆知識

  • ケンタウロス『Kentauroi』の語源は今もって未確定で、十九世紀のドイツ言語学者ウィルヘルム・シュルツェ『Quaestiones Epicae』(一八九二年)は印欧祖語の『牛追い棒』を意味する*(s)kent-に由来するという説を提示し、もう一方では『風の狩人』(anemos+thauros)というギリシアの民間語源も存在する — どちらも未解決の学説のままである。
  • 一九七七年に米国の天文学者チャールズ・コワルが土星と天王星の軌道の間に発見した天体『2060 Chiron』に名が与えられて以来、その軌道に類似する天体はすべて『ケンタウルス』(centaurs)小惑星群と分類され、新規発見の個体にケンタウロスの名(ポロス、ネッソス、カリクロなど)を与えるという国際天文学連合の命名規約が一九八五年に確立された。
  • パルテノン南側メトープ三十二枚のうち、現在まで比較的良好な保存状態を保つのは十二枚のみで、残りは六世紀のビザンティン時代にキリスト教徒が彫り込んだ十字によって破壊されるか、一六八七年のヴェネツィア軍砲撃によって粉砕された(アテネ新アクロポリス博物館、ペイディアス研究室一九九六年報告書)。
  • リック・リオーダン『パーシー・ジャクソン』シリーズ(二〇〇五年から)のケイロンは『ブルーナー先生』という車椅子のラテン語教師として最初に登場し、正体が明かされる瞬間に車椅子から立ち上がってケンタウロスに変身する。リオーダンは二〇一〇年の米国図書館協会講演で、この設定を『神話の英雄を密かに育てる教師たちへの献辞』と説明した。

Related