
ワイバーン
Wyvern · ドラゴンの一種 — 二脚と翼を持つ伝説の生物
ワイバーン(Wyvern)は中世ヨーロッパの紋章学(heraldry)と伝説に登場する二脚・コウモリ翼一対の竜の一種で、語源は古英語『wivere(蝮)』 — ラテン語『vipera(毒蛇)』に由来 — である。西方四脚竜と異なり前脚を持たず翼が腕の役割を果たし、長く棘の多い尾の先に矢じり形の毒針を備える点が決定的な外形特徴である。紋章学的形式はイングランド・ヘンリー二世期(十二世紀末)のアングロ・ノルマン紋章学で確立され、一四八六年のジュリアナ・バーナーズ『セント・オールバンズの書(Boke of Saint Albans)』(大英図書館IB.55712)が四脚竜と区別される独立の紋章獣として分類した最初の英文マニュアルである。ウェールズの赤竜(Y Ddraig Goch)は一四八五年ボズワースの戦い以降テューダー朝の公式紋章となり、十九世紀英国紋章学者がこれを『四脚のワイバーン』として調和させた。同一の輪郭はJ.R.R.トールキン『指輪物語(一九五四-五五)』のフェル・ビースト、フロム・ソフトウェア『ダークソウル(二〇一一)』のワイバーン、カプコン『モンスターハンター(二〇〇四- )』のリオレウス系飛竜、『エルダースクロールズV: スカイリム(二〇一一)』の竜、HBO『ゲーム・オブ・スローンズ(二〇一一-二〇一九)』の竜にまで継承されている。
起源
直接の起源は十二世紀末イングランド・アングロ・ノルマン朝の紋章学にあり、ベイユー・タピストリー(十一世紀末、フランス・ベイユー所蔵)に描かれるノルマン式竜の旗印が原型例として参照される。最も権威ある文献は一四八六年ジュリアナ・バーナーズ『セント・オールバンズの書』と一六一〇年ジョン・ギリム『紋章学陳列(A Display of Heraldrie)』であり、後者は『二脚・二翼・蛇の尾』という定義を成文化した。語源は古英語『wīvere』(十一世紀)→中英語『wyvere』→十六世紀『wyvern』に変遷し、ラテン語『vipera』と同根である。紋章学的図像はウェセックス、マーシア、レスターシャーなど英国諸地域・家門の紋章に広く採用され、現代のレスターシャー州旗にも継承されている。
特徴
- 二脚と一対のコウモリ翼、前脚なし
- 長く棘の多い尾、先端に矢じり形の毒針
- 古英語『wivere(蝮)』とラテン語『vipera(毒蛇)』を語源とする
- 一四八六年ジュリアナ・バーナーズ『セント・オールバンズの書』が四脚竜と区別
- 紋章学の意匠により毒または火を吐く
- 十二世紀アングロ・ノルマン紋章学から現代ファンタジー・ゲームまで一貫する輪郭
物語
中世ヨーロッパ紋章学において家門・地域・騎士団の紋章として用いられ、ウェールズ国旗・マーシア・ウェセックスの紋章が代表的事例である。現代ファンタジー — トールキン、D&D、『モンスターハンター』、『ダークソウル』、『スカイリム』、『ゲーム・オブ・スローンズ』 — においては四脚竜を凌駕する標準飛行怪物となった。
弱点
二脚のみでは地上の安定性に欠け、機動性では四脚竜に劣り、十二世紀ベスティアリーは正統な竜より知能が低いと記述している。飛行能力に依存するため、対空魔法と組織的な弓兵に弱い。
文化的・歴史的意義
ワイバーンはケルト・ノルマン融合の所産であり、ウェールズの赤竜(Y Ddraig Goch)、ウェセックスの緑のワイバーン、マーシアの金のワイバーンは地域アイデンティティの象徴であり、ヘンリー七世以降の英王室紋章の中核となった。
ポップカルチャーでの登場
ベイユー・タピストリー(十一世紀末)、アングロ・ノルマン紋章学(十二世紀)、ジュリアナ・バーナーズ『セント・オールバンズの書』(一四八六)、テューダー朝のボズワース旗印(一四八五)、ジョン・ギリム『紋章学陳列』(一六一〇)、トールキン『指輪物語』(一九五四-五五)のフェル・ビースト、D&D『モンスターマニュアル』(一九七七、第五版二〇一四)、カプコン『モンスターハンター』(二〇〇四- )、フロム・ソフトウェア『ダークソウル』(二〇一一)、ベセスダ『エルダースクロールズV: スカイリム』(二〇一一)、HBO『ゲーム・オブ・スローンズ』(二〇一一-二〇一九)。