
スマウグ(Smaug、The Golden / The Magnificent / The Tremendous)はJ.R.R.トールキンの一九三七年の小説『ホビット、または往きて還りし物語(The Hobbit, or There and Back Again)』に登場する黄金欲の火竜であり、現代ファンタジーにおける『宝の山の上に眠る火竜』図像の直接の原型である。深紅の鱗、コウモリの翼、二本の脚(つまり厳密な紋章学分類ではワイバーン)に火炎ブレスを備える邪悪な竜で、第三紀二七七〇年頃に孤山(エレボール)のドワーフ王国デュリンの民を襲撃し、スロール(Thrór)王家を虐殺し、孤山の宝物 — アーケン石(Arkenstone)を含む — を奪い、その上に横たわって眠りについた。約一七〇年後、ホビットのビルボ・バギンズ、ソリン・オーケンシールド率いる一三人のドワーフ遠征隊、そして魔法使いガンダルフが孤山へ向かう冒険の中で、ビルボは『ホビット』第一二章『内部からの情報(Inside Information)』でスマウグと宝の山の中で対面し、その左胸の鱗の抜けた一点を発見する。情報は老ツグミ(thrush)を介して湖の町(エスガロス)の人間の弓手バード(Bard the Bowman)に伝わり、家伝の『黒い矢(Black Arrow)』が正確に命中、スマウグは湖の町に墜ちて死に、その遺骸は湖底に沈む。死後に起こった『五軍の合戦(Battle of the Five Armies)』が『ホビット』の頂点を成す。
起源
直接の原典はJ.R.R.トールキン著、一九三七年九月二一日にロンドンのジョージ・アレン・アンド・アンウィン社が刊行した『ホビット、または往きて還りし物語』であり、トールキンが一九三〇-三六年にオックスフォード・ペンブルック・カレッジの古英語ローリンソン・アンド・ボズワース教授を務めた時期に子供たちに語った話に始まる。トールキン自筆の一九三七年水彩『スマウグとの対話(Conversation with Smaug)』(オックスフォード・ボドリアン図書館トールキン・コレクション、MS Tolkien Drawings 30) — ビルボが宝の山の上でスマウグと対話する場面 — が視覚的正典である。神話的範型はトールキン本人が一九三七年の書簡(Letters #25)で明示した北欧サガ『ヴェルスング・サガ(Völsunga saga)』のファーヴニル(Fáfnir) — ビルボとスマウグの対話場面はシグルズとファーヴニルの対話の直接の変奏 — と古英語叙事詩『ベーオウルフ(Beowulf、一〇〇〇年頃)』終盤の宝の上の老竜(Beowulf二二〇〇-三一八二行)で、後者はトールキンの一九三六年英国学士院講演『ベーオウルフ:怪物と批評家(Beowulf: The Monsters and the Critics)』の主題でもあった。映画化はピーター・ジャクソンの『ホビット』三部作 — 『思いがけない冒険』(二〇一二)、『スマウグの荒らし場』(二〇一三)、『決戦のゆくえ』(二〇一四) — でベネディクト・カンバーバッチがモーション・キャプチャと声の両方を担った。
特徴
- 深紅の鱗、コウモリの翼、二本の脚(紋章学上ワイバーン)に火炎ブレス
- 左胸の鱗の抜けた唯一の弱点
- 孤山(エレボール)のドワーフ王国デュリンの民を約一七〇年占領
- 宝の山の上に眠る現代ファンタジー竜像の原型
- 古風かつ高慢な口調、自身の偉大さへの自負、情報漏洩に弱い
- 湖の町の人間弓手バードの家伝『黒い矢』により斃される
物語
現代ファンタジーにおけるすべての火竜の原型図像として、一九七七年AD&D『モンスターマニュアル』以後のD&Dレッド・ドラゴン、HBO『ゲーム・オブ・スローンズ』のドロゴン、『スカイリム』のアルドゥイン、『ドラゴンエイジ』のボス竜の視覚と物語形式を直接形成した。宝の上に眠るモチーフは一九八〇年『デイティーズ&デミゴッズ』でD&D色別分類に組み込まれ、正典化された。
弱点
左胸の鱗の抜けた唯一の弱点と、自身の偉大さへの自負ゆえにビルボの追従ですべての弱点情報を漏らす心理的弱点が決定的。両者はトールキンが北欧ファーヴニルの『腹下の鱗のない部分』と印欧カオスカンプの自負モチーフを統合した産物である。
文化的・歴史的意義
北欧ファーヴニル、古英語ベーオウルフ竜、中世ヨーロッパの獣譜(アバディーン獣譜、一二世紀)の宝物竜モチーフをトールキンが一九三七年に現代的に総合した産物であり、一九八〇年代以後の英語圏ファンタジー正典 — D&D、ドラゴンランス、『マジック・ザ・ギャザリング』、『ゲーム・オブ・スローンズ』、『スカイリム』 — に最も深く吸収された単一キャラクターである。
ポップカルチャーでの登場
J.R.R.トールキン『ホビット』(一九三七)、トールキン水彩『スマウグとの対話』(一九三七、オックスフォード・ボドリアン図書館トールキン・コレクション)、トールキン『指輪物語』付録(一九五五)のエレボール年代記、一九七七年ランキン/バス『ホビット』アニメ(アーサー・ランキン監督)、ピーター・ジャクソン実写映画『ホビット』三部作(二〇一二-一四)でベネディクト・カンバーバッチ主演、一九八〇年D&D『デイティーズ&デミゴッズ』、一九九三年『マジック・ザ・ギャザリング』のシヴァン・ドラゴン。
