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ガーゴイル

Gargoyle · 石像の怪物 — 中世建築を守る伝説の存在

ガーゴイル(仏語 gargouille)は十二世紀から十五世紀にかけて欧州哥特様式の大聖堂と教会の外壁に取り付けられた怪奇なる石彫の雨樋である。名は仏語 gargouille に由来し、その語源は羅典語 gurgulio(咽喉・水路)であり、英語 gurgle と同じ印欧語族の語幹を共有する。本来の機能は極めて実用的で、屋根から流れる雨水を獣の口から建物外へ遠く吐き出させ、外壁の石材浸食を防ぐ排水構造である。同時に怪物・悪魔・怪鳥の姿に彫り上げて悪霊を払う護符の意味も帯びた。最も著名な事例は一一六三年起工・一三四五年完成の巴里ノートルダム大聖堂のガーゴイルであり、十九世紀ウジェーヌ・ヴィオレ・ル・デュクの一八四三から一八六四年復元工事で多数が新たに設計加追された。ヴィクトル・ユーゴーの一八三一年小説ノートルダム・ド・パリの刊行で一般に名声を得た。排水機能を有さない純粋装飾石像は厳密にはシメラ(chimera)あるいはグロテスク(grotesque)として区別される。

起源

ガーゴイル(gargoyle)の語源は仏語 gargouille で、羅典語 gurgulio 咽喉 水路 および希臘語 gargarizein うがいする に根を有する。最も著名な神話起源は七世紀ルアン司教聖ロマヌス(Romanus of Rouen 約六三一年没)の伝説で、ラ・ガルグイユ La Gargouille なる竜がセーヌ川に住みノルマンディーの村人を喰い続けたところ、聖ロマヌスが囚人一名のみを伴って現れ十字を切って竜を屈服させ村に引致し処刑したと伝わる。竜の胴は焚かれたが頭と頸は竜自身の火炎により鍛えられて燃えず、新教会の壁に嵌めて雨樋とした。これがガーゴイル伝統の起源であると、ヤコブス・デ・ウォラギネの黄金伝説(Legenda Aurea 一二六〇年代)を含む中世文献に記される。実際の石造雨樋の歴史は中世遥か以前に遡り、古代エジプト・希臘・羅馬建築の獅子頭排水口がポンペイ遺構等に残存する。哥特様式建築が十三世紀以後ガーゴイル図像を標準化した。

特徴

  • 怪物 悪魔 怪鳥 シメラの形姿を有する石彫
  • 胴体に水路を貫通させ口から雨水を吐き出す排水構造
  • 外壁石材の浸食を防ぐ実用機能
  • 悪霊を払う護符としての象徴機能
  • 排水機能なき装飾石像はシメラあるいはグロテスクとして厳密に区別
  • 中世哥特大聖堂の定型外観要素

物語

ガーゴイルは哥特様式大聖堂の軒先と外壁角に設置されて雨水を建物外へ遠く吐き出す実用排水装置であった。最も典範となる事例は一一六三年起工一三四五年完成の巴里ノートルダム大聖堂であり、十九世紀建築家ウジェーヌ・ヴィオレ・ル・デュクが一八四三から一八六四年大規模復元の際に多数のガーゴイルとシメラを新たに設計加追した。ノートルダムの最も著名なる図像ル・ストリージ(Le Stryge)は実はヴィオレ・ル・デュク設計のシメラであり排水機能を有さない。巴里ノートルダム以外にも英国カンタベリー大聖堂 ソールズベリー大聖堂 独逸ケルン大聖堂 西班牙ブルゴス大聖堂など欧州各地の哥特建築の標準外観要素となった。一九九六年ディズニーアニメ・ノートルダムの鐘 一九九四から一九九七年ディズニーテレビ・ガーゴイルズに動く性格として登場し現代大衆文化の図像として定着した。

弱点

ガーゴイルの実用的弱点は石材の風化である。雨水に直接さらされる位置故数百年にわたり浸食が進み、ノートルダム大聖堂では十七・十八世紀に多数の原型ガーゴイルが風化破損し十九世紀ヴィオレ・ル・デュク復元時に新たに製作された。二〇一九年四月十五日のノートルダム火災でも尖塔と共に多数のガーゴイル・シメラが損傷し復元が進行中である。宗教改革以後新教地域(英国・独逸の一部)では偶像崇拝・迷信批判によりガーゴイル撤去事例が多数記録される。神話的弱点はほぼ扱われないが後代の幻想文学(ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ等)では生けるガーゴイルが日光に弱く昼間石に固まるとの設定が定型化された。

文化的・歴史的意義

ガーゴイルは単なる排水装置ではなく中世基督教建築の図像学的象徴体である。外壁に刻まれた怪物の形は教会内部の聖性と外部の世俗・悪魔界の境界を示す標識として解され、ベスティアリ図像の罪と悪霊表象が建築外部に可視化されたものである。十九世紀ヴィクトル・ユーゴーのノートルダム・ド・パリ一八三一が浪漫主義の中核視覚モチーフとして復活させ、ヴィオレ・ル・デュクのノートルダム復元一八四三から一八六四が新哥特様式ガーゴイル図像を定式化した。二十世紀にはディズニーアニメ・ノートルダムの鐘一九九六年 ディズニーテレビ・ガーゴイルズ一九九四から一九九七年 ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ正典怪物 ハリー・ポッターのホグワーツ・ガーゴイルなど現代幻想正典図像として拡張された。ガーゴイルは建築史・宗教図像学・大衆文化の三領域に同時に位置する稀少な図像である。

ポップカルチャーでの登場

ラ・ガルグイユ La Gargouille 伝説 七世紀ルアン司教聖ロマヌス無用譚ヤコブス・デ・ウォラギネ 黄金伝説 Legenda Aurea 一二六〇年代 ガーゴイル起源伝説収録巴里ノートルダム大聖堂 一一六三年起工 一三四五年完成 ガーゴイル図像の典範ヴィクトル・ユーゴー ノートルダム・ド・パリ 一八三一年 浪漫主義復活ウジェーヌ・ヴィオレ・ル・デュク ノートルダム復元 一八四三から一八六四年 多数のガーゴイル シメラを新規設計ディズニーテレビ・シリーズ ガーゴイルズ 一九九四から一九九七年ディズニー ノートルダムの鐘 一九九六年 ガーゴイル登場人物ラベルヌ ヒューゴー ビクター

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