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スリング

石を投擲する原始的投射武器

スリングは、革や布で作った小さな袋に石や鉛の弾を入れ、遠心力で投げる古代の投射武器である。袋の両端に二本の紐を付け、頭上や横でぐるぐる回し、片方の紐を放す瞬間に弾がすさまじい速度で飛び出す。構造はこの上なく単純で材料費がほとんどかからないが、熟練した投石兵が放つ石は頭蓋骨を砕くほどの速度を出した。とりわけバレアレス諸島(今日のスペイン領マヨルカ・メノルカ)の投石兵は古代世界最高の精鋭投石部隊で、カルタゴやローマの軍に傭兵として活躍した。旧約聖書でダビデが巨人ゴリアテを倒した武器としても広く知られ、鉛の弾(グランデス)を使えば射程と威力が大きく増した。

起源

スリングは人類が作ったもっとも古い投射武器に属し、新石器時代(紀元前約一万年)から用いられたと推定される。袋と紐さえあればよい単純な構造のため材料費が事実上かからず、狩りと牧畜の道具として広まり、そのまま戦争にも用いられた。古代地中海ではバレアレス諸島の投石兵が紀元前五世紀ごろから定評ある傭兵として活躍し、ローマ軍にもフンディトレスと呼ばれる投石補助兵が編成された。クセノフォンの記録によれば、ギリシア傭兵団(万人隊)のロドス出身の投石兵は、ペルシアの弓よりも遠くへ石を飛ばし、敵の射撃を圧倒したという。

特徴

  • 革・布の袋+二本の紐の構造
  • この上なく単純な構造 — 材料費がほとんどかからない
  • 頭蓋骨を砕くほどの投射速度
  • バレアレスの投石兵 — 古代の最精鋭部隊
  • 鉛の弾(グランデス)使用で威力が増す
  • 有効射程は約100~200m

物語

スリングの用い方は、距離から敵を絶えず悩ませることにあった。投石兵は敵の隊形へ石や鉛の弾を雨のように浴びせて負傷と混乱を起こし、攻城戦では城壁上の守備兵を牽制した。軽く携行しやすいため素早く撃って退く散兵戦に適し、弓より射程が長いこともあった。均一な鉛の弾は空気抵抗が小さく、より遠く正確に飛び、攻城では投石を棒に付けた『棒スリング(フスティバルス)』でより重い弾を投げることもあった。本来は牧人の狩りの道具でもあり、ダビデのような平凡な羊飼いの手になじんだ武器だった。

弱点

スリングの弱点は習熟の難しさである。きちんと狙って当てるには幼少からの数年の訓練が要り、弓よりも習いにくかった。また弾の大きさと重さが不均一だと命中率が大きく落ちるため、均一な弾を備えることが重要だった。革の紐と袋は雨に濡れると扱いにくく、何より敵が懐へ踏み込んだ近接戦ではほとんど無防備になる。ぐるぐる回して投げる動作には広い空間も要り、密集した乱戦には向かなかった。

文化的・歴史的意義

スリングは『小なる者が大なる者に勝つ』物語の象徴として、人類の文化に深く刻まれている。旧約聖書で鎧を着た巨人ゴリアテをただ一発の石で倒した羊飼いの少年ダビデの物語は、ささやかに見える武器と弱者が巨大な敵を超える原型的な場面として今日まで語り継がれる。一方、古代地中海ではバレアレスの投石兵がその正確さで名を馳せ、ローマ軍の鉛の弾には敵への嘲りや指揮官・部隊の名を刻んで投げることもあった — 投射体にメッセージを乗せて送ったのである。

ポップカルチャーでの登場

スリングは古代の戦争を扱う作品で軽歩兵・散兵の武器として登場する。『ローマ:トータルウォー』のような戦略ゲームで投石兵ユニットとして、ダビデとゴリアテを描く絵画や映画で弱者の象徴武器として、しばしば現れる。ファンタジーでは『指輪物語』や『D&D』のホビット・ハーフリングのように、小さな種族の武器として描かれることが多い。ただし創作では弓に隠れて比重が小さく扱われることが多く、熟練した投石兵が弓に匹敵する、あるいは上回る射程と威力を出したという史実はあまり描かれない。

豆知識

  • 古代の著述家によれば、バレアレス諸島の少年たちは高い所に置かれたパンをスリングで当てて落とすまで食べさせてもらえなかったといい、この幼少からの鍛錬が古代地中海最高の投石傭兵を育て、カルタゴやローマの軍で活躍させた。
  • ローマ軍の鉛の弾(グランデス)には、敵への嘲りや指揮官・部隊の名、『受け取れ』のような文句を刻んだものが多く、遺物として多数伝わる。これは投射体にメッセージを乗せて送った早い例である。
  • 旧約聖書で羊飼いの少年ダビデがただ一発の石で巨人ゴリアテを倒した物語は、スリングのもっとも有名な登場であり、『小なる者が大なる者に勝つ』永遠の象徴となった。そしてスリングは実際にも牧人の道具だった。