
ボーラ
紐付き石の投擲武器
ボーラは二~三個の重い石(または金属)の錘を紐でつないだ投擲武器で、投げると回転しながら飛び、対象の脚に巻きついて動きを縛る。殺すより『捕らえる』ための捕獲武器であることが最大の特徴である。南アメリカのパタゴニアの先住民が発達させた狩りの武器で、レア(ニャンドゥ、南米のダチョウ)やグアナコ(ラマの野生の近縁)のような速い草原の動物を狩るのに主に用いた。のちガウチョ(南米のカウボーイ)が牛を追うのに使ってさらに有名になった。錘一個の重さは約200~500g、紐の長さは約60~100cmで、戦いの武器としても用いられ、インカ帝国の軍が戦場で活用した。
起源
ボーラは南アメリカのパタゴニアの先住民(テウェルチェ・マプチェ族)が数千年前から用いてきた狩りの武器である。弓を射にくい開けた草原(パンパ)で、全速力で逃げる動物の脚を巻きつけて倒すこの武器は、狩りの核心の手段だった。のちアルゼンチン・ウルグアイ・ブラジル南部のガウチョが牧畜、とりわけ牛を捕らえるのに採り入れ、南米カウボーイ文化の象徴となった。一方ボーラは戦争にも用いられ、インカ帝国の軍が戦場で活用し、マプチェ族はスペイン騎兵の馬の脚を巻きつけて倒すのに用いたという記録がある。
特徴
- 二~三個の石・金属の錘を紐でつないだ構造
- 回転しながら飛び脚に巻きつく捕獲武器
- 錘一個の重さ約200~500g、紐の長さ約60~100cm
- 南米パタゴニアの先住民の伝統的な狩りの武器
- ガウチョ牧畜文化の象徴的な道具
- インカ帝国の軍の戦いの武器としても使用
物語
ボーラは頭上で錘を素早く回転させて遠心力を集めたのち、逃げる動物や敵の脚へ向けて投げる。投げられたボーラは回転しながら飛び、錘が広がったまま脚に巻きつき、その運動量でしっかり縛り上げて対象を倒す。殺すより動きを縛って捕らえることに目的があり、速いレアやグアナコを生きたまま捕らえたり、牛を止めたりするのに適した。戦場では騎乗した敵の馬の脚を巻きつけて落馬させる形でも用いられた。有効射程はおよそ15~30mで、距離を取って標的の脚を狙う武器だった。
弱点
ボーラは事実上使い捨ての投擲武器であり、投げたのちは回収するか別の武器に持ち替えねばならない。有効射程は15~30mと短く、敵が懐へ踏み込んだ近接戦では使えない。また頭上でぐるぐる回して投げる動作にある程度の空間が要り、正確に脚を狙って巻きつかせるにはかなりの熟練が求められる。何より直接の殺傷より捕獲・制圧に特化しているため、相手を一度に倒す決定打としては限界が明らかである。
文化的・歴史的意義
ボーラは南米のガウチョとパンパの草原文化の象徴である。もとはパタゴニアの先住民の狩りの武器だったものが、ガウチョの牧畜の道具へと受け継がれ、アルゼンチン・ウルグアイの民俗と自己像に深く刻まれた。マプチェ族がスペイン征服者の騎兵に立ち向かい、馬の脚を巻きつけて倒した逸話は、単純な狩りの道具が侵略に抗する武器となった例として伝わる。一方、遠く北極圏のイヌイットも複数の錘を付けたボーラで飛ぶ鳥を捕らえており、互いに無関係な二つの文化が同じ発想の武器を独立に作った興味深い例である。
ポップカルチャーでの登場
ボーラは南米・西部開拓を背景とした作品や、原始・狩りを扱うメディアでしばしば登場する。ゲームでは敵の足を縛る『拘束・捕獲』系の武器として描かれ、ガウチョや先住民の狩人キャラクターの道具として現れる。ただし直接殺す武器ではなく動きを縛る武器という本来の性格が正確に反映される例はまれで、しばしばただ投げる鈍器のように単純化される。現実のガウチョ文化では今日も民俗公演や実演でボーラ(ボレアドーラス)を見ることができる。
豆知識
- 博物学者チャールズ・ダーウィンはビーグル号の航海中、パンパで馬に乗ってボーラ(ボレアドーラス)を使ってみたが、誤って自分の馬の脚を巻きつけて倒したことを『ビーグル号航海記』に自嘲混じりのユーモアで記している。
- ボーラは殺す武器ではなく『捕らえる』武器で、頭上で回して投げると広がった錘が逃げるレア・グアナコや軍馬の脚を運動量で巻きつけて縛り上げ、マプチェ族はこれをスペイン騎兵の馬の脚を縛るのに用いた。
- 三個の錘を付けたボーラ(ボレアドーラス)は、パタゴニアの先住民の狩りの武器からアルゼンチン・ウルグアイ・ブラジル南部のガウチョの牧畜の道具へ受け継がれてその象徴となり、遠く北極圏のイヌイットも複数の錘を付けたボーラで飛ぶ鳥を捕らえた。