
リッチ
Lich · 不死の魔法使い — 魂を封じ死を拒んだ大魔法使い
リッチ(英語Lich)は知識と権能への執着にて自ら不死者となりたる強力なる魔法使いにて 魂を フィラクタリー(phylactery)と呼ぶ器に封じて肉体が破壊されても器が残らば復活する魔法使い不死者の頂点正典図像である。語源は古英語lic(屍 体)に由来し — 八世紀古英語叙事詩ベオウルフ等に登場する一般的 屍 の意味が — 後代英文学にて魔法使い不死者の特定の意味として定着した。図像学的起源は千九百三十二年クラーク・アシュトン・スミス(Clark Ashton Smith)のパルプ・ファンタジー短編 降霊術師の帝国(The Empire of the Necromancers)と千九百三十四年ロバート・E・ハワード(Robert E. Howard)のクル(Kull)シリーズに登場するトゥルサ・ドゥーム(Thulsa Doom)等なれど 決定的正典化は千九百七十六年五月ゲイリー・ガイギャックス(Gary Gygax)がTSRの雑誌戦略リビュー(The Strategic Review)第二巻四号に リッチ(The Lich) 短編にて発表したる事件と千九百七十七年一月AD&Dモンスター・マニュアル(Monster Manual)六十一頁にリッチが加えられたる事件である。千九百七十八年ゲイリー・ガイギャックスの冒険モジュール恐怖の墓(Tomb of Horrors S1)にてデミリッチ・アケレラク(Acererak)登場にて — 魂を封じたるフィラクタリーを破壊せざる限り本体を殺しても復活する — 正典が確立された。二千八年十一月十三日発売ブリザード・ワールド・オブ・ウォークラフト・リッチ王の怒り(World of Warcraft: Wrath of the Lich King)のリッチ王アーサス・メネシルが二十一世紀グローバル・リッチ正典を位置付けた。
起源
図像学的起源は ① 古英語lic(屍 体)の語源的起源 ② 千九百三十年代米国パルプ・ファンタジーの不死魔法使い伝承 ③ 千九百七十六年から七十七年ゲイリー・ガイギャックスのD&D正典化の三段階より構成される。語源的起源は古英語lic(屍)にて 八世紀のベオウルフに登場する一般語彙にて — 現代英語corpseの同義語 — パルプ・ファンタジー作家が魔法使い不死者の名称として復活させた。パルプ・ファンタジー正典は千九百三十二年九月クラーク・アシュトン・スミス(千八百九十三年から千九百六十一年)のウィアード・テールズ(Weird Tales)短編 降霊術師の帝国(The Empire of the Necromancers) — 砂漠の都市ヨンド(Yond)の二人の降霊術師が死せる者たちを復活させて帝国を建てたるも魔法が解けて滅びたる筋 — と千九百三十四年ロバート・E・ハワード(千九百六年から千九百三十六年)のクル(Kull)シリーズ短編 此の斧にて我は治む(By This Axe I Rule! 千九百二十九年作未発表・千九百三十四年発表)に登場する復活したる魔法使いトゥルサ・ドゥーム(Thulsa Doom)である。決定的正典化は千九百七十六年五月米国TSRの雑誌戦略リビュー第二巻四号にゲイリー・ガイギャックス(千九百三十八年から二千八年)が発表したる短編 リッチ と千九百七十七年一月AD&Dモンスター・マニュアル(Monster Manual)初版六十一頁にリッチ(Lich)が正典的怪物項目として加えられたる事件である。千九百七十八年四月出版モジュール恐怖の墓(Tomb of Horrors S1)にてゲイリー・ガイギャックスがデミリッチ(Demilich)アケレラク — 魂を宝石に封じたまま頭蓋骨のみ残りたるリッチの進化形 — を導入してフィラクタリー(phylactery)正典を確立した。
特徴
- 腐敗せる頭蓋骨の姿と冷たき知性
- 魂を封じたるフィラクタリー(phylactery 生命の器)
- 膨大なる黒魔術と降霊術の達人
- 死せざる時の中の陰謀家
- 本体破壊されてもフィラクタリーが無事なれば復活
- 魔法使い不死者の頂点 — 戦士不死者のデスナイトと対比
物語
千九百七十六年から七十七年ゲイリー・ガイギャックスのD&Dリッチ正典化以後 — 千九百七十八年恐怖の墓のデミリッチ・アケレラクが最も決定的なる正典人物となり — 後続D&D正典人物として千九百七十六年グレイホーク世界観に導入されたるベクナ(Vecna ブライアン・ブルーム創造のリッチ神) 千九百八十五年ドラゴンランス(Dragonlance)のフィスタンダンティラス(Fistandantilus)とレイストリン・マジェレ(Raistlin Majere)の後続変形等が定着した。千九百九十四年一月二十一日発売ブリザード・エンターテインメントのビデオゲーム・ウォークラフト二・闇の波(Warcraft II: Tides of Darkness)にてリッチがホード(Horde)の魔法部隊キャラクターとして遊戯化され 二千二年七月三日ウォークラフト三・レイン・オブ・カオス(Warcraft III: Reign of Chaos)にてリッチ王(Lich King)ネルジュル(Ner'zhul)が — オーク降霊術師が燃ゆる軍団により氷の王座に封じられてリッチ王となりたる — 現代ゲーム・リッチ正典を確立した。二千八年十一月十三日発売ワールド・オブ・ウォークラフト・リッチ王の怒り(World of Warcraft: Wrath of the Lich King)にてリッチ王アーサス・メネシルが — 魂が剣フロストモーン(Frostmourne フィラクタリー変形)に封じられたまま氷の王座のヘルムを被りて死せざるリッチ王として君臨 — 二十一世紀グローバル・リッチ図像の決定的正典を完成させた。二千十年九月二十七日米国カートゥーン・ネットワーク・アドベンチャー・タイム(Adventure Time)シーズン二第二十六話 リッチ王に(Mortal Folly)に登場するザ・リッチ(The Lich)キャラクターが米国アニメーション・リッチ正典である。
弱点
リッチの弱点は ① フィラクタリー(phylactery)破壊 — 千九百七十六年ゲイリー・ガイギャックス・D&D正典以後リッチを完全に消滅させるためには本体に非ずして魂を封じたるフィラクタリーを探し出して破壊せねばならず 本体のみ破壊されれば数日後にフィラクタリーより復活するとの正典 ② 隠されたるフィラクタリー — 千九百七十八年恐怖の墓のデミリッチ・アケレラクのフィラクタリーが迷宮の深きところに隠されて — 冒険者達が迷宮全体を探索せねばならぬ — 正典的冒険叙事 ③ 神聖なる魔術と光の権能 — D&D正典にてクレリック(Cleric)の不死者追放(Turn Undead)神聖魔術がリッチを衰えしめ 二千八年リッチ王の怒り最終戦闘にて光の導者ティリオン・フォードリングの夜明けの光の剣にてリッチ王アーサスが浄化される ④ フィラクタリー浄化 — 魂が封じられたるフィラクタリーを神聖なる儀礼にて浄化すればリッチの魂が解放されて完全消滅 ⑤ 不死への執着 — 本質的なる弱点にてリッチ自身が自らのフィラクタリーに繋がれたる存在なれば 魂の繋ぎが解ければ崩れる。二千二年ウォークラフト三の結末にてアーサスがフロストモーンにて自らの氷の王座に封じられたるネルジュルの精神と融合する頂点 二千十年アドベンチャー・タイムにてフィンとジェイクがザ・リッチを真言と儀式にて封じる筋が正典的変容である。
文化的・歴史的意義
リッチは単なる不死者に非ずしてパルプ・ファンタジーとD&Dゲーム正典と現代ビデオゲームが融合せし魔法使い不死者の正典的図像にて 不死の代価と知識の傲慢 を凝縮せし現代幻想の核心アレゴリーである。千九百三十年代米国パルプ・ファンタジーのクラーク・アシュトン・スミスとロバート・E・ハワード — 両作家共にH・P・ラヴクラフト・サークル(Lovecraft Circle)のウィアード・フィクション同人 — が魔法使い不死者のパルプ的原型を確立し 千九百七十六年から七十八年ゲイリー・ガイギャックスのD&D正典化が — フィラクタリーに魂を封じるとの — 現代幻想の決定的動機を確立した。フィラクタリー(phylactery)なる用語は希臘語phylakterion(守るもの)に由来して本来はユダヤ教のテフィリン(tefillin 経典箱の護符)を意味するも ゲイリー・ガイギャックスが千九百七十八年恐怖の墓にてリッチの魂封印器として借用して — 宗教史的語彙を幻想ゲームに専有したる — 正典的用語借用事例である。二千二年ウォークラフト三と二千八年リッチ王の怒りのリッチ王アーサス・メネシルは — 英雄王子が権能への執着にて堕落する悲劇 — としてゲーム叙事の正典的人物となり 二千十年アドベンチャー・タイムのザ・リッチは米国子供アニメーションのリッチ図像定着事例である。二千十七年から二千二十年批評家協会のビデオゲーム名台詞百選にアーサスの 我は最早英雄に非ず(I am no longer your son) 台詞が三十三位に選定された。
ポップカルチャーでの登場
古英語ベオウルフ 八世紀頃 — lic語源起源クラーク・アシュトン・スミス 降霊術師の帝国 千九百三十二年 — パルプ・ファンタジー・リッチ原型ロバート・E・ハワード 此の斧にて我は治む(トゥルサ・ドゥーム) 千九百三十四年 — パルプ・ファンタジー復活魔法使いゲイリー・ガイギャックス リッチ 戦略リビュー 千九百七十六年五月 — リッチ正典化の決定的事件ゲイリー・ガイギャックス AD&Dモンスター・マニュアル 千九百七十七年 — リッチD&D正典ゲイリー・ガイギャックス 恐怖の墓 アケレラク 千九百七十八年 — デミリッチとフィラクタリー正典ブリザード ウォークラフト二 千九百九十四年 — ゲーム・リッチ正典化ブリザード ウォークラフト三 リッチ王ネルジュル 二千二年 — ゲーム・リッチ正典ブリザード ワールド・オブ・ウォークラフト・リッチ王の怒り 二千八年 — 二十一世紀グローバル・リッチ決定的正典