
スパンゲンヘルム
金属帯を交差させた骨格構造の兜
スパンゲンヘルムは、金属の帯(スパンゲン)を弧を描くように交差させて骨組みを作り、その間の空きを金属板で埋めて仕上げる分割構造の兜である。普通は額を巡る帯と、頂で交わる幾本かの弓なりの帯を鋲で繋いで骨格を作り、その升目を鉄や青銅の板で埋めて、円錐に近い形を成す。一枚の鉄板を打ち出して丸ごと作る兜には高い技が要ったが、スパンゲンヘルムは部品を別々に作って組み立てるため、はるかに易しく速く作れた。そのため大量に供給され、ゲルマン・フランク・ビザンツ・ヴァイキングなど初期中世の戦士の最も普通の兜となった。鼻を覆う鼻当て(ナサル)の付いた形が最も多く、一部には頬当てや後ろを覆う鎖の垂れが加えられた。部品を別々に作る方式ゆえ複数の金属を混ぜて用いることができ、地域や時代により無数の変種がある。
起源
スパンゲンヘルムは中央アジアと近東(サーサーン朝ペルシア)の兜の伝統に由来し、民族大移動の時代を経て欧州全域へ広まったと見られる。東方の草原の騎馬民族と後期ローマ世界を通じて西へ伝わり、六世紀ごろには「バルデンハイム型」と呼ばれる一様式が欧州各地で広く作られ、今日も数十点が伝わる。帯と板を別々に作って組み立てる製法は一枚の鉄板の兜より易しく、ゲルマンやフランクの王国からビザンツ帝国に至るまで広く採用された。おおよそ九から十世紀まで用いられ、その後、一枚で打ち出した円錐形の「ナサルヘルム(ノルマン式の兜)」へ次第に座を譲った。
特徴
- 金属の帯(スパンゲン)を交差させて作る骨組みの構造
- 骨組みの間を金属板で埋めて仕上げる
- 鼻当て(ナサル)の付いた変種が最も一般的
- 一枚の鉄板の兜より作りやすく大量生産に向く
- 複数の金属や材を混ぜて用いることができる
- ヴァイキング・ゲルマン・ビザンツの戦士の代表的な兜
物語
スパンゲンヘルムは初期中世の戦士の標準の兜で、頭に下帽を被った上に載せて広く用いられた。帯で組んだ骨格が衝撃を集めて受け、その間を埋めた板が斬撃や矢を防ぎ、前面のナサルが鼻と顔の中央を覆った。一部の形は後ろに鎖の垂れを付けて襟首を覆い、頬当てを添えて顔の側面まで守った。一枚の鉄板の兜より安く作りやすいため、貴族の戦士だけでなく一般の兵にまで広く供給され、初期中世の戦場で最も普通の頭の防具となった。
弱点
スパンゲンヘルムの弱点は分割構造の継ぎ目と、不完全な前面の防御である。幾本もの帯と板を鋲で繋いで作るため、その接合部が構造として最も弱く、強い打撃が継ぎ目を正確に打てば開いたり裂けたりすることがあった。また大半のスパンゲンヘルムは鼻を覆うナサルがあるだけで顔の大半が開いており、正面から来る攻撃に顔と目がさらされた。こうした限りから、後の世には継ぎ目なく一枚で打ち出してより頑丈にした兜が次第にその座を取って代わった。
文化的・歴史的意義
スパンゲンヘルムは民族大移動の時代と初期中世を象徴する兜で、東西を結ぶ草原の道に沿って広まったユーラシア共通の形式を示す。よくヴァイキングといえば角の生えた兜を思い浮かべるが、ノルウェーのギェルムンビューで出土した最も完全なヴァイキング時代の兜のように、実際のヴァイキングの兜は角のない素朴なスパンゲンヘルムの系であった。角の生えたヴァイキングの兜は十九世紀の浪漫主義の時代に作られた像にすぎず、歴史の裏付けはない。このようにスパンゲンヘルムは、華やかさより実用と普及を先んじた初期中世の戦士の現実の姿を宿している。
ポップカルチャーでの登場
スパンゲンヘルムはヴァイキングやゲルマン、初期中世を扱う映画・ドラマ・ゲームに、戦士の基本の兜としてよく登場する。鼻当てだけの素朴で武骨な外見が初期中世の雰囲気をよく出し、一般の兵や略奪者の姿として広く描かれる。ゲームでは序盤の基本の兜としてよく使われる。ただし創作では考証を無視してヴァイキングに角の生えた兜を被せることが今なお多く、実際のスパンゲンヘルムの素朴な形とは隔たりがある。
豆知識
- 「スパンゲン」は骨組みを成す金属の帯を意味するドイツ語で、帯を交差して骨格を組みその間を板で埋める分割の製法が名の由来である。
- よく知られた角の生えたヴァイキングの兜は十九世紀に作られた像にすぎず、ノルウェーのギェルムンビューで出た実際のヴァイキング時代の兜は角のないスパンゲンヘルムの系である。
- 一枚の鉄板を打ち出して作る兜より作りやすく大量の普及が可能で、六世紀の「バルデンハイム型」のように欧州各地で同じ様式が広く作られた。