
ネメアのライオン
ネメアの獅子 · 不死の怪物 — ギリシャ神話の伝説の獣
他言語での名称
- 네메안 라이온한국어
Nemean Lion · 네메아의 사자 — 그리스 신화의 불멸의 괴수
- Nemean LionEnglish
Nemean Lion · Invulnerable Beast — Immortal creature of Greek myth
- 尼米亞獅子繁體中文
尼米安獅 · 不死怪獸 — 希臘神話的傳奇生物
- Nemeischer LöweDeutsch
Nemeanischer Löwe · Unsterbliche Bestie — Legendäres Wesen der griechischen Mythologie
- Lion de NéméeFrançais
Lion de Némée · Bête invulnérable — Créature immortelle de la mythologie grecque
- León de NemeaEspañol
León de Nemea · Bestia invulnerable — Criatura inmortal de la mitología griega
- Leão de NeméiaPortuguês
Leão de Neméia · Fera Invulnerável — Criatura imortal da mitologia grega
- Lew nemejskiPolski
Lew Nemejski · Niezniszczalna bestia — Nieśmiertelne stworzenie z mitologii greckiej
- Немейский левРусский
Немейский лев · Неуязвимый зверь — Бессмертное существо древнегреческой мифологии
ネメアの獅子(希語 レオン・ネメイオス)はギリシア神話においてペロポネソス半島北東ネメアの谷に住んだ巨大な黄金の獅子で、ヘラクレス十二の功業第一の対象である。ヘシオドス神統記によればテュポンとエキドナ(あるいはオルトロスとキマイラ)の子で、異伝では月の女神セレネが天より落としたとも伝わる。最も恐ろしい特徴はいかなる青銅・鉄の武器も貫けぬ獣皮であり、ヘラクレスは弓・剣・棍棒を順に試みるも全て失敗し、口が二つある洞窟に獅子を追い込み一方を塞いで両腕で首を絞めて仕留めた。皮を剝ぐ際もいかなる刃も通らず、女神アテーナーが獅子自身の爪を使う知恵を授け、それのみが皮を切ることができた。ヘラクレスはその皮を生涯の外套とし、頭を兜代わりに被ったため、獅子の皮はヘラクレス像の最も決定的な象徴となった。
起源
ネメアの獅子最古の文献は紀元前八世紀ヘシオドス神統記三二六から三三二行であり、獅子はオルトロスとキマイラ(あるいはエキドナ)の子としてケルベロス ヒュドラ スピンクスと並列され、ヘラがネメアに放ってヘラクレスを試した。十二の功業第一の正典叙述は紀元一から二世紀の偽アポロドロス図書館第二巻五章一節にあり、口が二つある洞窟 アテーナーの助言 素手による絞殺 獅子の爪による剝皮 ミュケナイ王エウリュステウスへの献上が全てここに揃う。ディオドロス シケロス歴史叢書第四巻十一章三から四節 ヒュギヌス神話集三十 パウサニアス希臘案内記第二巻十五章二から三節 そしてテオクリトス田園詩第二十五歌に獅子格闘が補強される。ネメアの谷にはゼウス神殿があり、紀元前五七三年創設の汎ギリシア四大競技の一つネメア競技が獅子神話と結合して挙行された。
特徴
- 巨大かつ黄金色の獅子の体軀
- いかなる青銅 鉄の武器も貫けぬ獣皮
- 獣皮は獅子自身の爪でのみ切れる
- 異伝では月の女神セレネが天より落としたとされる
- ネメアの谷の口が二つある洞窟を棲家とする
- 咆哮のみで近隣の村と家畜を脅かす威力
物語
ヘラクレス十二の功業第一の象徴的敵であり、紀元前六世紀以降の希臘美術の常套図像である。黒絵式 赤絵式陶器 ヘラクレス神殿のメトープ ポンペイ壁画 ローマ時代の石棺浮彫に英雄が獅子を素手で絞め殺す情景が繰り返される。黄道十二宮の獅子座はプトレマイオス アルマゲスト所収の四十八星座の一として、神話的にネメアの獅子と同定される。十六世紀枢機卿アレッサンドロ・ファルネーゼ依頼のファルネーゼのヘラクレス像 アンニーバレ・カラッチのファルネーゼ宮天井画一五九七から一六〇八年 ペーテル・パウル・ルーベンスのヘラクレス画一六三九年などに獅子の皮図像が定着し、現代では英国王室紋章の獅子 英国ラグビー代表エンブレム ディズニー長編映画ヘラクレス一九九七年など獅子図像の神話的原型として参照される。
弱点
いかなる武器も貫けぬ獣皮こそ獅子の最大の力であり同時に神話的弱点でもあった。偽アポロドロス図書館によれば、ヘラクレスが弓 剣 棍棒を全て失敗した後、口が二つある洞窟の一方を塞ぎ正面格闘で両腕によって絞め殺した。皮を剝ぐにも刃が通らず、アテーナーの助言により獅子自身の爪を使うのみが皮を切ることができた。ネメアの獅子の決定的弱点とは外的武器ではなく英雄自身の身体と知恵(アテーナーの示唆)にあり、これはギリシア神話の英雄試煉構造の中でも最も道徳的に明瞭な型である。
文化的・歴史的意義
ネメアの獅子の皮はギリシア ローマ美術においてヘラクレスを他のいかなる英雄からも区別する決定的視覚記号である。獅子の頭部を兜とし獣皮を外套とする英雄像はアッティカ陶器に始まり ヘレニズム ローマ期のファルネーゼのヘラクレス像 アンニーバレ・カラッチのファルネーゼ宮天井画 ルーベンスのヘラクレス画 そして近代受容に至るまで定型化された。天文学では黄道十二宮の獅子座が獅子の死後の姿として神話化され、紋章学では英国王室とスコットランド王室の獅子 英国ラグビー代表のエンブレム 中世以来の多数の紋章がネメア原型に遡る。ディズニー長編映画ヘラクレス一九九七年とゲーム ゴッド・オブ・ウォーシリーズではネメアの獅子が第一ボスの正典図式となっている。
ポップカルチャーでの登場
- ヘシオドス 神統記 三二六から三三二行 紀元前八世紀 オルトロスとキマイラの子としてネメアに置かれる
- 偽アポロドロス 図書館 第二巻五章一節 紀元一から二世紀 ヘラクレス第一功業の正典叙述
- ディオドロス シケロス 歴史叢書 第四巻十一章三から四節 およびヒュギヌス 神話集 三十
- テオクリトス 田園詩 第二十五歌 ヘラクレス自身の一人称叙述による獅子格闘
- パウサニアス 希臘案内記 第二巻十五章二から三節 獅子の洞窟の場所比定
- ファルネーゼのヘラクレス像 ヘレニズム ローマ模刻 ナポリ国立考古学博物館蔵 獅子皮図像の彫刻的正典
- アンニーバレ・カラッチ ファルネーゼ宮天井画 一五九七から一六〇八年 バロック期のネメアの獅子図像
豆知識
獅子座はネメアの獅子と神話的に同定され、プトレマイオス アルマゲストの四十八星座に含まれ現代国際天文学連合の八十八星座中にも保持される。獅子の皮を獅子自身の爪で剝ぐ場面は偽アポロドロス図書館で最も明瞭に伝えられ、アテーナーが英雄に知恵を授ける希臘神話の典型である。十二の功業の標準順序は偽アポロドロスにより 一 ネメアの獅子 二 レルナのヒュドラ 三 ケリュネイアの鹿 四 エリュマントスの猪 五 アウゲイアスの厩 六 ステュムパロスの鳥 七 クレタの牡牛 八 ディオメデスの牝馬 九 ヒッポリュテの帯 十 ゲリュオネウスの牛 十一 ヘスペリデスの林檎 十二 ケルベロス捕獲 と確立され、獅子が第一に置かれるのは年代順ではなく図像学的必然 つまり獅子の皮こそ以後の全功業を通じて英雄の鎧となるからである。